私が獣医師の道を志したのは、とても単純な理由からでした。幼少期に入院生活を経験したことで医療そのものに強い興味を抱いたこと、そして何より、動物が大好きだったこと。その真っすぐな思いを原動力に、私は「いのち」の現場へと飛び込みました。
しかし、実際に臨床獣医師として働き始めると、現実は理想だけでは語れないものでした。数多くの動物たちの終末に立ち会い、野鳥救護の現場では「野生の命」と「人間のエゴ」に翻弄されてきました。
かつての私は、誰よりも「愛しすぎて苦しむ」人間でした。 救えない命に絶望し、飼い主様の悲しみに同調しすぎては、自分の不甲斐なさに蓋をするように獣医師としての知識や技術の向上を続け、押しつぶされそうになりました。
その葛藤は動物相手だけでなく、人間に対しても同様でした。組織という「群れ」の論理に翻弄される日々の中でも、形を変えて私を追い詰めました。
「大切に思うからこそ、苦しい。どうすれば、健やかにかかわれるのだろうか」
その答えを探して、私は心理学や漢方の門を叩きました。そこで見つけたのは、相手を「愛」という名の物語で縛るのをやめ、あるがままの姿を観察するという、静かで自由なやりかたでした。
現在は、臨床の現場を振り返りながら、獣医学・生態学の視点と心理学の知見を融合させ、人や動物との「ほどよい距離のとり方」を探求しています。また、人と人との関係についてや、自分が抱えていることでもある愛着の問題についても学びを続けています。
このブログでは、診察室での出来事、野鳥の生きざま、そして社会という群れの中での気づきを、日々の記録として綴っています。
私の経験が、かつての私のように「愛しすぎて疲れてしまった」誰かの心を、ほんの少し軽くするきっかけになれば幸いです。
